コレクション: CRAFTED - つくり手の声 vol.6

齋田石材店 齋田隆朗さん・海音さん

寺社や日本庭園の石灯籠に、米やそばの実を挽く石臼、墓石、街道沿いの道しるべ。「日本は木の文化の国」と言われますが、自然石を加工することで生まれる石工芸品も千年以上にわたり、わたしたちの暮らしや信仰を支え続けてきた大切な存在です。特にここ京都では、仏教文化や室町以降に盛んになった「茶の湯」の影響により、独自の美意識や技が育まれてきました。

京都府亀岡市に工房を構える齋田石材店は、こうした伝統を現代に伝える注目の工房です。得意とする古代型の石灯籠から、暮らしに寄り添うモダンな灯りや菓子皿などのプロダクトまで。石工の手でかたちが刻まれることで、豊かな表情や温かみが生まれる石工芸の魅力、これからの可能性について、5代目の齋田隆朗(たかあき)さんと若き後継者の海音(かいと)さんに伺いました。

CRAFTED - つくり手の声 vol.6

茶の湯の精神が磨きあげた
「京石工芸品」を受け継いで

京都・嵐山から山をひとつ越えた先に広がる亀岡市。なかでも齋田石材店があるのは、市内中部の自然豊かな「曽我部町法貴(そがべちょう・ほうき)」地区。創業は1902年(明治35)に遡ります。

「工房のすぐ裏にある山で上質な花崗岩が採れたため、かつてこの地は石工の里として栄えました。今は枯渇しましたが、この山のみで産出する“法貴石(ほうきいし)”が名石として珍重されてきた歴史もあります」と、5代目当主の齋田隆朗さん。21歳で家業を継ぐことを決意し、この道へ——。先代の下で真摯に技を磨き、現在は地元に唯一残る石材店として、数少ない京都の石工の精鋭として活躍されています。

工房の庭はギャラリーも兼ねており、灯籠や手水鉢、墓石などが並ぶ。古い石垣や橋脚の石のリサイクルにも取り組むため、さまざまな時代や地域の石が集まる一角も。

全国津々浦々、名石の産地で石工芸品が作られてきましたが、京都で作られるものは「京石工芸品」と呼ばれ、国の伝統的工芸品に指定されています。隆朗さんによれば、特に京都の職人は、日本庭園や茶室の「露地(茶庭)」に設える灯籠や手水鉢を得意とするのだとか。

「石灯籠は元々、清浄な灯りを神仏に献上するためのものでした。そこに侘び寂びや静寂の趣を見出し、庭で用いるようになったのが千利休ら茶人たち。京の石工はその美意識を受け継いでおり、今でも灯籠は室町以前に作られた名品を“本歌(手本)”とし、これを写したものを手がけるのが基本です」(隆朗さん)。

室町以前に作られた「古代型」を手本とする京の石灯籠。手本は数十種類あり、その由来やかたち、デザインはさまざま。写真中央は古田織部ゆかりの織部灯籠で、別名「キリシタン灯籠」。

「写す=模刻する」と一言でいっても、美や佇まいを再現するには長年の経験とセンス、確かな技が求められます。時を経た風合いを出すために、あえて輪郭や角をぼかしたり、苔を生やすなどの独自の工夫も。さらに驚くことに、京都ではひとりの石工がすべての工程を手仕事で仕上げているそうです……!注文主の細やかな要望に応えるためとはいえ、その矜持とこだわりに並々ならぬものを感じます。

笠の先端がくるりと丸まった「蕨手(わらびて)」の灯籠。蕨の新芽に似ているのが名の由来で、「無限の生命力」を象徴する縁起もの。鎌倉時代以降の灯籠に見られる。

長い時を重ねてきた自然石、
その声に耳を澄ます

大きいもので一基700kgにもなる石灯籠ですら、ひとりで仕上げていく京都の石工の世界——。数千万年の時や、火山や地層の営みが生み出した自然石と向き合い、新たな命を刻んでいくための技や知恵を知るべく、2024年末に父・隆朗さんに弟子入りした海音さんに工程の一部を見せていただきました。

古代型の灯籠は造りも精巧。各パーツは「ほぞ(凸部)」と「ほぞ穴(凹部)」により固定されるため、地震にも強い。

海音さんがこの日手掛けていたのは、石灯籠の一番上を飾る「笠」。ある程度の大きさに石を切り出す際は切削機を使いますが、それ以降は実直な手作業のみ。優美なカーブ(丸みや反り)もすべて、手の感覚で削り出すそうです。海音さんは「ハツリノミ(鑿)」と「石頭(せっとう=ハンマー)」を巧みに用い、小気味よいリズムで石を削っていきます。半屋外の工房に響きわたるのは「キンッ、キンッ、キンッ」という澄んだ高音。どこか音楽のようでもあり、繊細さや神々しさも感じさせます。







灯籠の笠を削り出す6代目の海音さん。齋田石材店で用いる石は「花崗岩(御影石)」が中心で、瀬戸内や岐阜に直接買い付けに行くことも。

「実は一振り一振り、ノミを向ける先を変えているんです。石の目や割れる方向を読み、かすかな反響にも耳を傾けます」と海音さん。力任せに石に抗うのではなく、石頭を振り下ろす瞬間の重みだけをノミに伝える。石の声を聞き、対話するような姿勢が石工のあるべき姿なのだと気づかされます。



花崗岩は、さまざまな結晶が生み出す斑点模様が特徴。「地下深くでマグマがゆっくり冷えてできる石で、硬く耐久性に富む一方、比較的加工しやすい良さもあります」(海音さん)。

聞けば海音さんは、大学時代はアメリカで経営学を学んでいたそう。「当時は家業を継ぐ意思はありませんでした。父の仕事すらあまり分かっていなくて……(笑)」と振り返ります。しかし、異国に暮らすなかで、あらためて日本の工芸や石工の技に心惹かれるように。帰国前には、日本庭園で名高いポートランドで庭園づくりのインターンも経験。


「石灯籠は、庭のなかにあってこそ生きるもの。最初に庭を見る眼を養えたことが、この仕事に生きていると感じています」(海音さん)。

石工道具。石を割り、削るための石頭(せっとう)、コヤスケ、ハツリノミ、表面に細かな凹凸を付けるビシャンなど。他に差し金、墨つぼ、墨差しも。

地元に根ざし、世界を志す。
二つの視点を持つ強み

齋田石材店では2007年から海外で展示やワークショップを行い、京石工芸を世界に発信し続けてきました。単身で各地を渡り歩いたという隆朗さん、その大胆な行動力の裏には、「庭石工芸の需要低迷による危機感があった」と言います。「20-30代はサーファーとして海外のアマチュア大会に参加してきたので、海外を身近に感じていたんです。英語は話せませんでしたが、腕一本と身ぶり手ぶりで勝負(笑)。最初にご縁をいただいたのが、石造りの伝統があるイタリアだったことも大きい。とても喜んでもらえて、大きな可能性を感じました」。

予約制で、「卓上ランタン(ティーライトホルダー)」を作る体験ワークショップも開催。ノミを握り、自分で石をくり抜く工程に挑戦!

現在はこれまでの経験を活かし、異業種の京都の職人とチームをつくり、持続可能な海外進出をサポートする活動もスタート。そして2026年には、地元・亀岡で「工房見学とフィールドツアー」を始動させました。「京石工芸を次代に残すために、裾野からファンを増やしたい。そのためにまずは僕らが根ざす土地や技術を知ってもらうのが一番」と隆朗さんと海音さん。「フリーハンドで削っていくので、30cm角の石があれば何でも作れる自負があります。実際に製作風景を見て「石って面白いかも」「こんなものを作ってほしい」と感じてもらえたらうれしいですね」。

齋田石材店によるローカルツアーより。巨大な石鳥居は大正15年に2代目が手がけたもので、能勢・妙見山へ続く参道入り口に立つ。足元には初代による道標石もある。

ツアーでは工房見学に加え、裏山への散策にも出かけます。というのも界隈は6世紀後半の古墳が100基近く残る土地。石積みや石室を用いる古墳は、石工文化の原初ともいえるのです。かつての丹波国と摂津国を結ぶ街道も通り、その峠は花崗岩の産地でもあり……。ローカルツアーを通して、歴史ロマンや石とともに歩んできた「土地の物語」を感じられるのが醍醐味です。

工房裏の峠に鎮座する国狭槌神社。野山を司る神を祀ることから、石工の守り神として信仰されてきた。

暮らしのなかに
石の温もりを取り戻す

「京石工芸の未来」を見据えた、齋田さん親子の挑戦はまだまだ続きます。そのひとつが現代の暮らしに寄り添う、新しいインテリアプロダクトの開発です。工房別棟に設けたショールームには、隆朗さんがこれまでに手がけた花器や酒器、テーブル、ワインクーラーなどのプロトタイプがずらり。サステナブルな視点から端材を使ったり、木やガラスを組み合わせるのも、隆朗さんらしい斬新なアイデアです。

「KYOTO CRAFTS and DESIGN COMPETITION 2024-2025」で審査員特別賞を受賞した石皿《明々》。表情豊かな花崗岩の端材を活かして。

日々修業に励む海音さんも、父から託された製品開発に邁進中。「屋外で使うもの、重くて扱いづらいものという石のイメージを変えていきたい」と海音さん。インテリアとしての「関守石」は、海音さんの発案です。本来は河原の石などをシュロ縄で結び、庭の結界(立ち入り禁止を示す)として用いますが、これを石工の技で丸く彫り上げ、美しい「京くみひも」で結んだオブジェとして昇華させています。

ノミで仕上げた「手の痕跡」をそっと残した二人の石細工にふれていると、遠い昔、石の道具が暮らしのそばにあった時代が思い浮かぶよう……。その心地よい温もりは、便利さや効率といった現代の物差しでは測れない手仕事の豊かさであり、途方もない時間をかけて生み出された石が宿す、かすかな地球の記憶なのかもしれません。



庭園で用いる「関守石(せきもりいし) 」を美しいインテリアオブジェに。

CRAFTED特別企画|石工の里を訪ねる一日

記事でご紹介した石工の里・亀岡を、実際に歩いてみませんか。

齋田石材店の石工・齋田海音さんの案内で、約100年前に手仕事で造られた大鳥居や石工にゆかりのある神社などを巡り、この土地に息づく石の文化をたどります。工房では、伝統的な道具を使った石工技術を間近で見学。さらに石臼で碾茶を挽き、挽きたての抹茶を味わいます。

土地を歩き、職人の話を聞き、技を見て、石に触れる。CRAFTEDの記事から一歩先へ、京都の石文化を五感で体験する1日限りの特別なツアーです。

2026年11月3日(火・祝)開催/各回10名限定

→ ツアーの詳細・お申し込みはこちら

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