コレクション: CRAFTED - つくり手の声 vol.2
NIEI・光武みゆきさん(陶号 丹影)
高度なロクロ技から生まれる端正なうつわを、艶やかな花鳥風月や金彩で彩る清水焼の絵付けの世界。全国でさまざまな技法が発展してきましたが、その優美な佇まいは、かつて都があった京都ならではのもの。
陶号 丹影(にえい)として活躍する光武みゆきさんは、清水焼の絵付け師として技を磨いた経験を活かし、「絵付け表現のさらなる可能性を探求、発信したい」と清水焼のブランド『NIEI』を立ち上げました。工房兼ショップを構えるのは、京都市の東山三条エリア。
想いを同じくする3人の絵付け師と共に生み出す作品は、伝統とモダンの境界をかろやかに飛び越え、百花繚乱の輝きを放っています。
「絵付けの仕事」に光を当てる、NIEIの挑戦
一般に陶芸家というと、土をねって成形し、焼成、絵付けまですべてをひとりで行うものですが、千年の都・京都で育まれた京焼や、その代表格である「清水焼」では少し異なります。茶の湯や京料理をはじめ、華道、香道などの伝統文化とともに発展し、洗練を極める過程で、各工程を専門の職人が担う高度な分業化が進んだといわれています。
「幼い頃から絵を描くこと、色彩について考えることが大好きだった」という丹影さんは、清水焼の一職人である「絵付け師」として長年活躍してきました。絵付けとはその名の通り、陶磁器に色をつけたり、絵や文様で彩ること。京都では技法ごとに異なる職人が担当しますが、丹影さんが惚れ込んだのは、本焼きを終えたうつわに、顔料や金彩を用いて華麗な装飾を施す「上絵付け」という工程です。

著名な窯元で修業後、結婚や出産で現場を離れた丹影さんは、復帰にあたり独立を決意します。「この仕事は大好きだけど、子育てをしながら職人に戻るのは難しい。ならば、自分を含めた女性の絵付け師たちが、一生仕事を続けられる環境をつくろうと考えました」
まずは絵付けに特化した日常づかいのブランドを、そして2021年に丹影さんが始動させたのが、清水焼の芸術性・装飾性をとことん探求する『NIEI』です。所属するのは丹影さんと、染雨斜(そうしゃ)さん、琥珀さん、京華さんの計4名の実力派。絵付け師が自ら店を持ったことで、メンバーの世界は一変。これまで匿名の存在であった絵付け職人の仕事に光が当たり、それぞれの個性や表現の豊かさに共感してくれるファンが一気に増えたのです。

「使い手の心をときめかす」作品を目指して
「音楽を聴いたり、絵画を眺めるように、手にした瞬間に心を揺さぶる作品を作りたいんです。第一印象ではっとしたり、ピンとくるということは、作る人と使う人の感情が共鳴している証だと思うから」と話す丹影さん。
NIEIでは四者四様の感性でデザインを手がけていますが、なかでも代表の丹影さんの作品は、ヴィヴィッドな色彩感覚と、繊細さと大胆さをあわせもつ巧みな筆運びが魅力。そのベースには、幼少期を過ごしたヨーロッパの色彩感覚や、窯元での修業時代に「繰り返し繰り返し描いて、身体にしみ込ませた」という伝統技法があるそうです。
得意とする技法のひとつが「描詰(かきづめ)」。同じ文様を、同じ大きさ、同じ濃さの色で描き連ねていくのですが、特に桜の美しさは格別……! 周囲に咲き広がるように描いていく花弁には、ふわりと匂い立つような色気が漂います。根気も時間も要する作業ですが、一本一本の線には、絵付けをこよなく愛する丹影さんの思いや喜びがにじみ出ているよう。

乾山写しの美学――偉大な先人に学ぶ意義とは
丹影さんが憧れてやまない陶芸家が、江戸時代の京都の陶工・絵師の尾形乾山(けんざん)です。琳派のひとりでもあり、重なり合う紅葉や川の水飛沫、デフォルメされた菊、椿など、斬新かつ躍動感のあるデザインが醍醐味。師匠の野々村仁清と並び、京焼の色絵を大成した二大スターです。
「焼きものの世界には“写し”と呼ばれ、偉大な先人の作品に敬意を表し、その作風を採り入れて創作する文化があります。挑むたびに鮮烈な刺激を受けるのですが、一方で『私の作品は後の人々の心を動かせるのか?』と問われている気がして、身が引き締まります」。

丹影さんの「乾山写し」は、龍田川(紅葉と流水)の皿や、大らかな筆致の角皿などさまざま。随所に丹影さんらしさ、今という時代の空気感も感じられ、ふと手にとって料理やお菓子を盛り付けてみたくなる愛おしさがあります。乾山にインスパイアされた作品もあり、そのほとんどが一点もの。描く瞬間の生の感情をそのまま乗せ、直感的、即興的に描いていくそうです。

見据えるのは世界。ニューヨークで得た確かな手応え
NIEIの世界展開を見据え、多言語でのSNS発信をはじめ、フランスやイタリア、ドバイなど海外の見本市やマーケットの出展に力を入れてきた丹影さん。世界の安全基準にあわせて「鉛を用いない絵の具」に早期に切り替え、必要な技術を工房一丸で高めてきたのもこだわりです。

こうした努力が実を結び、丹影さんは2025年秋、N.Y.のブルックリンに誕生した寿司店の指名で、うつわや陶オブジェの制作を一手に担うことになりました。製作したのは、寿司台やネタを乗せる大皿、酒器、千客万来を願う招き猫など。レセプションに招待され、シェフやお客さんに称賛されたことが「大きな自信になった」と笑顔で語ります。
珠玉のネタで握る寿司を、四季の絵柄が引き立てる姿はほれぼれするほど。「うつわは日本料理の衣装」といいますが、京料理を彩ってきた清水焼はその最たるもの。丹影さんの作品も、実際に寿司や料理を盛り込むことでぐんと存在感を増します。

新作への挑戦で、次代の表現を切り拓く
丹影さんは、京都伝統産業ミュージアムが主催する「京都クラフトアンドデザインコンペティション(TRADITION for TOMORROW 2024-2025)」で社長賞を受賞しました。新たな表現に挑戦し、「Hologram(ホログラム)」と名付けた作品は、まばゆい輝きを放つ口径33cmの大鉢。まるで細密画のような緻密さで、アラベスクや西アジアを思わせる文様をびっしりと描いています。
「実は “デジタル複製”のイメージをヒントにしているんです。枠の中の文様は同じではなく、複製を繰り返しながら少しずつ変容させています。その様子がどこか、シルクロードを通って伝播する文化に似ている気もして。異なる色と色、文化と文化、価値観と価値観が交わりながらも調和する美しさを形にしたいと思いました」。

陶号に「影」の字を入れた理由を、「色は光から生まれ、光は影によって強さを増す。作品を通して、色や光の奥行きを表現できたら」と語る丹影さん。本作でも、鉢の中に浮かび上がる光の波がランダムに瞬いては、美しく移ろいます。AIやテクノロジーで何でもできる時代だからこそ、手の仕事にこだわりたい——。丹影さんが見つめるのは、絵付け師だからこそ描ける「新しい清水焼」の未来。今後のさらなる飛躍に期待が高まります。

NIEI
清水焼の絵付け師、伝統工芸士の丹影さんが2021年に立ち上げた清水焼のブランド。
東山三条に工房兼ショップを構え、優美で洗練された絵付けのうつわを展開する。現在参加している絵付け師は、代表 丹影さんのほか、染雨斜さん、琥珀さん、京華さんの計4名。それぞれが自由な感性で表現しているため、個性豊かな作品に出会えるのも楽しみのひとつ。
【NIEI 展覧会予定】
2026年1月6日(火)〜
会場:タッセルホテル三条白川(京都市東山区大井手町103-3)
2026年1月30日(木)〜2月11日(火)
会場:アートサロン くら(京都市東山区清水1-287-1)

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