コレクション: 輪 CRAFTED - つくり手の声 vol.5

伏見人形 丹嘉・大西貞行さん

ぱっと目を引く明るい色と、愛らしいかたち。懐かしさがありながら、古びることなく、時代を超えて愛される、伏見人形。日本最初の郷土玩具であり、全国にあるさまざまな土人形のルーツといわれます。江戸時代に最盛期を迎え、窯元は50~60軒に上りましたが、いまでは寛延年間(1748~1751年)創業の「丹嘉」一軒のみです。

「僕が物心ついたときは二軒でしたが、いまはうちだけですね」と、八代目大西貞行さん。丹色ののれんがかかる店は、京都らしい“鰻の寝所”。奥にある工房にて、父や弟、職人と力を合わせて受け継ぎます。

伏見人形はコレクターも多く、昨今は外国人旅行者にも人気。「京都伝統産業ミュージアムで見て、ここまで足を運ばれる方もいらっしゃいます。海外の方はフットワークが軽いですね」と、店に立つこともある、大西さん。創業時から変わらず、店を構えるのは伏見稲荷大社の参道沿い。伏見人形のはじまりから、お話をうかがいました。

輪 CRAFTED - つくり手の声 vol.5

はじまりは400年前、
いつしか人気のおみやげに 

伏見稲荷大社の門前にあるので、縁のあるきつねはがたくさんありますが、そればかりではありません。干支や招き猫といった福を招く縁起物、時代ごとの流行りもの、教訓をこめたものなど、小さいものも含めると2000種類に上ります。店内には年代物の非売品も含め、ぎっしりと飾られますが、それでもごく一部。奥深い世界にわくわくします。

「伏見稲荷大社のご利益を授かるべく、山の土を使ってつくりはじめたのが、伏見人形のはじまり。参拝者が山の土を持ち帰り、五穀豊穣を願って田畑に撒いていたのが、このあたりでいつしか人形がつくられるようになり、おみやげとして人気を集めました」

 型を使って成形し、素焼きして、彩色すれば完成。釉薬をかけない、素朴さが魅力です。

 「伏見人形のルーツは、おみやげ。伝統工芸というと値段がするイメージかもしれませんが、3000円台くらいから。思っていたより手頃と感じられる方も多いですが、手に入れやすさは大事なところなんです。50軒あった時代は、それこそ競争もあったでしょうから」

お客さんを振り向かせるべく、競い合ってきたことが、バリエーションの豊富さ、デザインのおもしろさにもつながっています。

「いまは一から十までぜんぶうちの工房でやりますが、昔は分業制。型をつくる人、土をいい状態にもみこむ人、窯に薪をくべる人……、それぞれに長けた職人がいたでしょうから、店の個性があったと思います。うちには廃業された窯元から流れてきた型もあるので、昔よりさらにバリエーションがあるんですが、人形の原型をつくる、原型師はたぶんいっぱいいたはずです。同じ題材でも作風が全然違うものがありますから」

 浮世絵は数多の絵師によって、さまざまな作風が生み出されましたが、伏見人形も然り。原型師がたくさんいたことが作品の豊かさにつながっています。

「2000種類ある型のうち、毎年定番でつくるのは50種類ほど。ほかに、干支の置物、自分たちの好みや時代のニーズで何年ぶりかにつくるものもあり……、年間で150種類ほどでしょうか。まだ僕がつくったことのないものもたくさんあります」

 レアなものとも出会えるかもしれず、その年ごとの顔ぶれが楽しみです。彩色は過去の作品や写真、父の口伝に基づいて。鮮やかな原色を使うのも、昔からです。

 「牛や馬の鼻がブルーなのも、昔から。鼻といえば黒か茶色のイメージで、突飛に思えるかもしれませんが、よく見ると青みがかっているんです。そのニュアンスをとらえ、デザインとして、昔の人はブルーを使った。すごいセンスだなと思います」

 懐かしい、けれど、モダン。職人たちのセンスが、いまも新しく目に映ります。

時代とともに変化しながら
手仕事を受け継ぐ


成形に使う型は、土型と石膏型の2種類。土型の方が古く、石膏型は明治時代以降につくられたもので、どちらも使います。

 「土型は使い込んでも摩耗することはほぼない、半永久的に使えると言っていいと思います。石膏型は使ううちに摩耗していきますが、つくりやすい。一長一短ですね」

 土型は裏表の反面ずつ型があり、それぞれに土を入れて型を取り、土がまだやわらかいうちに型から出して合わせます。 

「乾燥し過ぎると型から抜けにくくなるので、土の融通が効く間にはずします。はずしたら表と裏を合わせ、合わせ目に土をかませて、なじませながら一体にしていきます。合わせ目は乾燥するとひび割れしやすいので、気を使いますね」

立ち雛の土型。きめ細かな土でつくられ、内側はつるっとした手触り。摩耗せず丈夫で、着物の柄を描く線がいまもくっきりと。

一方、土型ほど手がかからないのが、石膏型です。

 「石膏型を使えば、型からはずした段階で形ができあがる。仕上げに合わせ目のバリ(はみ出た部分)を取るくらい、格段にスムーズです。土の吸収乾燥が早いのもメリットですね。土型は個体差があり、1回、2回使うと水分を吸わなくなるので、しばらく置いて乾かさなければならない。量産には圧倒的に石膏型が向いています。たくさんつくりたい、人気のあるものは、土型を基に石膏型がつくられました。言い換えれば、土型しかないものは、土型で間に合っているということでもあります。こういった手仕事は古いものを使う方がいいと思われるところもありますから、心苦しいですけど、そういう背景がありますね」

型に土を入れて、成形する。素焼きは奥にある電気窯で。「以前は薪窯を使っていましたが、高温になり過ぎて窯変すると色がのらない。電気窯はムラなく焼けるので、適しています」

成形し、乾燥させたら、大きな電気窯で素焼き。ここまでが、春夏の作業。秋冬は彩色に専念するのが、毎年のサイクルです。

 「暑くて湿気の多い時は、色を定着させるために使う膠(にかわ)が腐りやすいんです。腐るまでいかなくても、絵具の定着が悪く、剥離につながる。伏見人形の窯元すべてがそうだったかわかりませんが、このサイクルは理に適ったやり方なんです」

 半年に一度、作業に合わせて仕事場の道具は総入れ替え。一括して作業がおこなえ、場所を分ける必要もない、確かに効率的です。秋冬の彩色も成形や素焼きと同じく、専任ではなくみんなでおこないますが、顔を描くのは代々当主のみ。先代の父とふたりで担います。

父である、先代の大西時生さん。土型でつくったきつねの合わせ目を丹念になじませる。

「顔は大事だと思います。どこまでみなさんが見てはるかわかりませんが、大事。いまでも緊張します。だから、こういった取材の時はやらない。できるだけ静かなタイミングでやりたいですね。ただ、よく
“命を吹き込んでいるんですね”とか言われるんですけど、なにも吹き込んではいないんです(笑)。何か吹き込んでいたら20個くらいで僕の命が尽きます。一番いいのは「無」だと思うので。雑念を入れず、できる限り無心を心がけています」

 

無心でつくったものだからこそ、手にした人の願いや思いが込められるのかもしれません。

唐辛子鼠に彩色。ねずみの繁殖力にあやかり、子宝や豊穣を願う縁起物。

秘めた物語も楽しみながら
好きな作品を見つける


干支やお雛様、端午の節句と、季節の行事に合わせて飾るのも楽しみ。京都の台所では神棚に並べる布袋さんを毎年初午の日に買い求める風習も根ざしています。

「2月の初午の日、伏見稲荷大社のお参りと併せていらっしゃる方がいまもたくさんあります。前年より大きい布袋さんを買って神棚に並べ、家内安全、子孫繁栄を願われます」

神棚には布袋様が並ぶ。京都では火伏の神様として、台所に並べる風習がある。

さらに、大西さんに知られざる「推し」を聞いてみると、まずあがったのが、チョロケン。

 「京都の祭りに参列し、家をまわって、お祝儀を頂戴する、獅子舞に近いものです。僕は「ゆるキャラ」と説明していますけど、等身大の着ぐるみ。どこかで復興したというニュースは見ましたけど、ずっとつづいているものはないと思います」

 伏見人形が伝える、いまはなき風俗。ユーモラスなデザインで、猿チョロ、馬チョロ、お福チョロなど、いろんな種類があるのもおもしろい、縁起物です。

お祭りやお正月に家々をまわった、チョロケン。笑顔を誘う、ユーモラスなデザイン。

「近ごろは鍾馗(しょうき)さんも人気ですね、とくに海外の方から。アメリカ人のガイドの方によると、京都の町を案内していて、屋根にのって家を守る鐘馗さんのことを説明すると、興味をもたれるそうです。関東地方にもこどもの日に飾る文化があるらしいですね。屋根の上に置くのは無理ですが、家の中に飾って楽しんでもらえたら。……こういう話をしていると、ぜんぶにエピソードを求められるんですけど、すべてがそういうわけではないんです。犬を抱いている男の子は可愛いからデザインされたものです。信仰の対象になるものも、見て可愛いものもある。デフォルメされたものも多いですけど、それを含めてのバリエーションの多さが伏見人形の魅力。ご自身の思うまま楽しんでいただけたら」

饅頭喰い人形は、代表的なモチーフ。「どちらが好きか」と問う父と母に対し、饅頭を割って、「どちらがおいしいか」と子どもが返す、教訓が込められる。賢い子どもに育つよう願いを込めて飾られ、京都では和菓子店でもよく見かける。

Tanka Chapter12

Recently viewed