コレクション: CRAFTED - つくり手の声 vol.3
田村将軍堂・田邨知史さん
かるたの語源は、ポルトガル語の「紙の札」を表す「Calta」。今から500年ほどさかのぼる室町時代、鉄砲伝来の頃に日本に伝わりました。南蛮かるたと呼ばれ、後に花かるた(花札)として広く流行していきます。一方で、鎌倉時代の初期、藤原定家が嵯峨嵐山で優れた和歌を撰んだことから始まる「百人一首」は、江戸時代に木版画の技術とともに、かるた遊びとして貴族だけではなく、広く庶民にまで普及していきます。
田村将軍堂は、大正10年(1921年)に知史さんの高祖父の田邨熊二郎氏が創業しました。創業当時からの、かるたづくりを現在も継承している老舗です。競技かるた等でも話題を集めている「百人一首」ですが、田村将軍堂が手がけるのは、手づくりに徹した高級かるた。日本の文化を今に伝える、美しき歌と絵の結晶ともいえる伝統玩具です。四代目となる田邨知史さんは、その伝統的な技術と心を今に伝える、全国でも数少ない職人です。
田村将軍堂は、創業当初から主に「百人一首」を生産販売してきました。
「全盛期はバブル期でした。当時は私も幼い頃ですので、聞いた話しになりますが、生産が追い着かないほどで、他社は徐々に機械生産に変わっていきました。その一方で、テレビゲームなどが急速に普及しはじめると”かるた”の需要は少なくなっていきました」。
その後、知史さんは、企業の研究職として働いていましたが、十年前に、貴重な手づくりかるたの心技を絶やしてはならないとの想いが募り、家業を継ぐことを決心します。そして祖父の弟である大叔父から、その手仕事のすべてを習得していきます。
「はじめは、ごくこまかく、繊細な手しごとが、時流に合ってないと思いつつ、苦心したこともありましたが、じっくりと仕事をしていくうちに、喜んでいただくためには、本当にいいものをつくって、百人一首なら一組200枚、花かるたなら48枚、かるたの札を一枚一枚、手を駆使しておつくりしていくやり方こそが、理にかなっていると思うようになっていきました」。

当時、高級かるたは、特別なものとして親しまれていましたが、昨今のSNSの普及やインバウンド需要の高まりにより、少しずつ変化していったといいます。
「”百人一首”を観賞用として購入される海外からの旅行者もおられますが、言葉が通じなくても、絵を介して楽しむことができる”花かるた”を購入してくださる方が増えました。『次はもっといいものを』と想いが増して仕事に励んでいます」。
工房は、工程ごとに作業室が分かれていて、知史さんが動きやすいように設えられています。この空間だからこそ、手もとの物や道具に集中することができるのでしょう。
「気がついたら、うちのようなつくり方をしているところは、もう日本全国では、唯一ここだけではないかと思うようになっていきました」。と知史さんは、微笑みます。
“花かるた”が出来るまでの一通りの工程について、お話をまじえながらうかがいました。

紙の”目”を見て
微細な”反り”を生む
「『きじはり』という工程なのですが、"花かるた"も"百人一首"も、絵柄の付いた表紙に、台紙を二重、あるいは三重に重ねて貼り合わせています。
花かるたの札は百人一首の札と比べて、反りがあります。紙にはある一定の向きに網目のような繊維の”目”があり、これを見きわめ、紙全体に生じてくる”反り”を微妙に調整していきます。
「反りすぎても、真っ平らでもよくはなくて、自然で絶妙な反り具合があることで、遊んでいるときに、札が集めやすく、扱いやすくなります。こうした細やかなニュアンスはとても大事なので、心がけています」。
紙は、生きているみたいに、気温や湿度によって、毎回状態が変化します。このあたりを見きわめるのが難しいのですが、これを重ねて貼ると堅牢さが格段に増してきます。”札”が、傷ついたり折れ曲がったりしたら、かるたにとっては、その価値が一気に台無しになってしまいます。こうしてきちっと表紙に台紙に貼ることで、一枚一枚しっかりとした札に仕上がります」。

自然由来の糊
生きている用材を活かす技
「糊は小麦などからとれるでんぷんを原料とした自然由来のものです。伝統的な日本家屋の障子張りなどに使われる糊と似ています。乾いたときに、ピタッとしっかり密着するだけでなく、自然と"張り"が生じます。この張りが札には重要で、化学的な糊だと、この張りはでません」。
「田村将軍堂では、花かるたには、この糊に砥の粉(※)を混ぜています。これにより、札に堅牢さが増すだけでなく、手に持ったときに、しっかりとした重量感を出すためです。札で遊んでいるときに、札と札がぶつかって、”ぺチッ”と音が出るのは、この重さの加減によって出しています」。
(※)砥の粉は、特殊な石材を微細に砕いて粉状にしたもので、昔から木工品の表面や刀剣を磨くときに使われている。

台紙を貼り終え、2、3日乾燥させたあと『うわのり』の工程。表紙に塗工液を塗ります。
この作業にも重量感を持たせる意味があると言います。
表面の絵柄が色鮮やかに浮き上がり、艶が増す。さらに1日乾かすと生地が完成です。

瞬時にひと息
手に腰に力をこめて裁断
裁断する『おおだち』の工程で、知史さんは、使い慣れた裁断機を使い、息をととのえながら瞬時に、手動ですばやく札一枚一枚に切り分けていきます。
「紙は、水分によって微妙に伸び縮みします。断ち線に合わせて躊躇することなく縦横と切り、札一枚一枚の寸法を完璧にズレもなく揃えていくには、慣れないとうまくいきません」。
花かるたが、一般的なトランプに比べて札が小さいのは、札に厚みがあるので、繰るときに、手に納まりやすいよう計算されてあるそうです。

花かるたの裏紙は、べんがら色(赤札)あるいは墨色(黒札)に本染めされた和紙が使われています。知史さんは、この和紙の裁断も同様に迷いなく切り分けます。
電子制御された機械による裁断では、繊細な和紙を扱うことは未だ不可能で、和紙の特性を活かすには手作業に頼らざるを得ないと言います。
「仕上げの工程では生地に裏貼するのですが、ごく薄い紙なので、裁断のときも、糊づけの際の刷毛の力加減もむずかしいです」。

包むように一枚一枚を貼り合わせる
「傷つけないように一枚一枚慎重に、生地を手でやわらかく包むように貼り、最後に四隅をへりかえしていきます」。
花かるたは、48枚、百人一首だと200枚ですから、慣れてきても数時間はかかり、大変な工程です。
こうして最後に絵札を並べ、こまかく検品をして、田村将軍堂の昔ながらの手づくりのかるたが完成します。花かるたと百人一首、48枚と200枚、その一枚一枚が、匠の手によって精魂込めてつくられていきます。かるたの札は、たった一枚が欠けてもゲームは成立しません。その意味では、一枚ずつが主役であり、大切な脇役になることもあります。札一枚一枚を、手で慈しみながらつくりあげていく知史さんの手しごとの凄さを痛感します。

手ざわり、光沢、つや、発色、そして最良の硬さ
すべてに手づくりの技が活きる
糊と紙といった自然由来の素材を、手になじんだ道具を使って時と手間を惜しむことなく、一つ一つの工程を単独でこなしていく。田邨さんにとっては、ごく自然な手しごとの所作であっても、今の日本でこれを継承している人は、稀少になってきました。
「自分がやってることが特別であるとか、つくっている“かるた”が本物だとか、思ったことはありません。ただ、ひたすら”いいもの”を追求してきただけです。こうした伝統文化に根差した玩具や遊具は、時代の変遷とともに変わってきて当然です。つくりかたもそうですね。ただ、一枚一枚のかるた、その札の手ざわり、光沢、つや、発色、硬さ、それから札と札が打ち重なった時の音、また手の中での収まり具合など、微妙な感覚は、決して数値化できない普遍的な価値があると思っています。その絶妙な感覚は、手づくりでしかできないのです」。

田村将軍堂・田邨知史さんによる制作実演がご覧いただけます。
日程:2026年1月7日(水)~9日(金)
<実演時間 10:30-17:30>
*実演時間は変更になる場合があります。ご了承ください。
場所:京都伝統産業ミュージアム
有料(観覧料が必要です)
一般(大学生を含む)500円

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