布アート 小川光章氏

布アート 小川光章氏

ご縁を大切に

染織との出会いや、この道に進まれたきっかけをお教えください。

幼いころから絵を描くことが好きでしたし、染織に携わっておられる方が近所に大勢いらっしゃって、この道が選択肢の一つとして自然とそこにありました。ただ、自分の意志を決定付けたのは「色の魔力」によるものがいちばん大きいかなと思います。
染織の道に進むことを決めて工房へ入り、10年間勉強させてもらいました。今はほとんどありませんが、当時は新人を受け入れて修業させてもらえる工房がたくさんあったんです。一人前だと認めていただき落款(らっかん)を作ることを許されましたので、落款名を「光章(こうしょう)」としました。

「光章」はどのように命名されたのでしょう。

若手のものづくり仲間との談議の中で、知り合いに「名前を付ける人」がいるというのでお願いして、1箇月程してからいただいたのが「光章」でした。初めて聞いた時、「コウショウ」という響きがとてもきれいで良いなと思いました。
その後、落款だけでなく、独立して作った工房の屋号も「光章」とし、そんな時に「布アート」と出会って、自分の工房の在り方が現在のような方向になっていったんです。

「布アート」とはどのようなものでしょうか。

あるお客様から、「陶器の下に敷く個性的なものが欲しい」とオーダーをいただいて麻素材を見せていただいたんです。それまで扱っていたシルクと違って、麻にはざっくり感があって、筆を落としてみても今までと「あたり」が違っていて面白くて。そのまま魅力を感じて、のめりこんでいきました。
これをきっかけに、工房の方針も、麻を用いたインテリアにシフトしました。シフトした時に、シルクで学んだ技術や知識にプラスして、アート的な要素も布に活かしたいという思いがあったので、言葉として「布」というとらえ方をして、「布アート」という言葉を使うようになりました。

五感に訴えて、心に響くものづくり

京都商工会議所の「知恵ビジネス推進事業第1回創造的文化産業(クリエイティブ産業)モデル企業選定事業」へのご選出、誠におめでとうございます。選出されたことで、お心持ちの変化などありましたらお教えください。

創り手として、「クリエイティブ」という言葉を使って評価していただけることは、非常にありがたいです。多数の応募がある中「工房」というくくりでは唯一の受賞ではないか、という点も嬉しかったです。

国内だけでなく、海外でも高い評価を得ていらっしゃいますね。

言葉が無くても通用するというのは、デザイン性とかオリジナリティを感じ取っていただいているのだと思います。これは、「五感に訴えて心に響くものづくり」を目指している私にとってはものすごくうれしいことです。 「(外国の方に言葉が通じなくても)商品が営業をしてくれるようなものづくり」と、日頃積み重ねていることが結果として出てきているのかな、とみんなで話しています。

デザインを生み出す苦しみ

繊細なタッチの絵や大胆な墨絵など、様々な雰囲気の作品を制作されていらっしゃいます。

普通、作家さんというと、ひとつのものを追求して何かを完成される方が多いですよね。私の場合、本当に色々な方向性の作品があります。しかし制作にあたっては、筆のタッチや筆を下ろす時の息遣いまで感じていただけるよう、そして心地良い緊張感を漂わせるような空間を目指して作っています。ですから、抽象であろうが具象であろうが染料や墨を用いようが、それはただ技法の違い・モチーフの違いということで、私の中では常に一貫性があるんです。

全工程の中で、最も難しいところをお教えください。

いちばん難しいのは発想をデザインに落とし込むところです。ここが決まらないと、技法もどれを使うかってところが決まらない。私は自分を追い込んで、新しいものをぐーっと絞り出すタイプなんです。とことん追い込んだらデザインがふわっと降りてきてその瞬間は救われますが、やはり毎回苦労する、難しいところですね。

噛み砕いて、消化して

京もの専門店「みやび」で販売されています
ougi」シリーズはどのようにして生まれたのでしょう。

まずおおまかなアイディアがあり、工房のみんなで出し合ったおもしろいアイディアを組み合わせ、試作をしてみます。最初の試作では麻を使っていたのですが、ふと思いついて倉庫に保管していた帆布で作ってみたらこれが更に良かったんです。そして若手スタッフの意見も取り入れ色を決定していきました。
デザインを引き締めてくれている優しい雰囲気のステッチは、縫製担当のスタッフが考えてくれたものです。中のポケットや構造的なことを、自分が使う立場になって工夫してくれます。ougiシリーズの「発想」には使う人への心配りや創り手の想いがたくさん詰まっているんです。

ものづくりに携わる一人として、今、お考えのことはなんでしょう。

ものを作っているだけではひとりよがりの世界になりがちですが、みなさんとのコミュニケーションや応援の中から、工房が向かう次の道筋が自然に見えてきます。今のスピード時代にはそぐわないかもしれませんが、ものを作るのには、かみ砕いて消化した方が、時間が掛かってもオリジナルが出やすいのかなと思います。
工房としての進む方向としては、今は職人希望者を受け入れてもらえる染工房もなかなか無いですから、うちの工房でそんな若い方を受け入れ、育成できるような仕組みを作っていけたら、今後ものづくりをしていくうえで良いのかなと思うんですよね。

道具を作る職人さんがどんどん廃業していると聞きますが。

そうなんです。良い道具が入手しづらくなっています。新しいものを購入してもどこか違う。だから古い道具を修理してなんとか使っている状態です。需要が少ないため、道具屋さんそのものが少なくなっていますね。今、ここを踏んばらないと、たとえば100年後、どんなことになってしまうんだろうと思います。ここでなんとか頑張って、今の技術を後世に残していけるようにしないといけませんね。

最後に、小川様にとって「布アート」とは一言で表すと、ずばり何でしょうか。

五感に訴えて人の心に響くものづくりということかなと思います。そういうものを作りたい。究極には、点ひとつのみでも表現できるような境地に達したいです。